今回最優秀賞を受賞したチームhomenin(ホムニン)のみなさん、ビジネスアイデアが生まれたきっかけや、今回のピッチコンテストに参加した経緯、参加することを決めてからどんなことに苦労したかなどチームを代表して後藤和哉さんに話を伺いました。
人生で切実に感じた問題意識を、
忠実にビジネスプランに
【チーム名:homenin】
京都大学 大学院医学研究科 医学専攻博士課程4年 後藤 和哉氏(写真左)
京都大学 人間健康科学科3年 藤森 弥子(写真中央)
京都大学 大学院医学研究科 医科学専攻博士後期課程3年 北 悠人氏(写真右)
- Q:今回、最優秀賞を受賞したビジネスアイデアについて教えてください
- 自宅で使える不妊治療サービス「homenin(ホムニン)」の開発について発表しました。概要としては大きく3つありまして、①自宅でできる人工授精のデバイスの開発、②アプリ連動型の検査キットの開発(アプリと連動して排卵日を正確に予測・精子の質を判定する検査キット)、③メンタルケアのサポートツールの開発(不妊治療に対する相談・教育を兼ねた情報提供アプリ)です。どれも不妊治療を行う人たちの通院の負担を減らし、心身両面からサポートするためのものです。
- Q:今回のビジネスアイデアが生まれたきっかけとは?
- ビジネスアイデアを考える事業化プログラムの授業でこのテーマを選んだのがきっかけです。着想の根源にあったのは、pain(痛み)を感じている人の課題を解決すること。これまで自分が感じた痛みの中で大きかったものはなにか。私が夫婦で経験した不妊治療は切実でリアリティがありました。この問題を解決できたら社会にも良い影響を与えられるのではないかと思ったんです。社会的な背景を見ても、女性の社会進出に伴って妊娠は高年齢化し、不妊治療は増えています。その一方で相談しにくいデリケートなテーマであること、頻繁な通院が生活や仕事に与える影響など課題はたくさんあります。
- Q:最優秀賞を受賞できた勝因はどこにあったと思いますか?
- 参加したチームの提案はどれも社会が良くなるサービスばかりだったので、正直なところ私たちが受賞したことに今でも驚きがあります。参加にあたって強く意識したのは、サービスを提供する対象をかなり具体的にイメージすることです。私たち夫婦の経験や周囲の話を聴き、机上の空欄ではなく切実な問題を解決するビジネスプランをつくりました。もうひとつは社会に対するインパクトです。少子化が日本の国力に及ぼす影響は大きく、不妊治療は保険診療の対象になったこともあり、今後ますます増えていくでしょう。このミクロとマクロの視点で問題を解決するところが評価されたのではないかと感じています。
- Q:最も苦労されたことは何でしたか?
- 不妊治療という広い枠組みの中のどこを解決するのか、焦点を絞ってテーマをひねり出すまでが大変でした。不妊治療は年々高度化していますが、私たちのチームは体外受精のような高度化した部分にフォーカスするのではなく、その手前の段階を改善しようとしています。そこに気づくまでに時間がかかりました。また、私は大学院生として自分の研究をしながら、医師として患者さんを診ています。家庭では父親として子どもと触れ合う時間も大切にしています。そのためコンテストの準備は連日夜中の作業で、直前は体力的にかなりハードでした。
- Q:これからの目標を聞かせてください
- プレゼンテーションの後、ある審査員の方から「良いサービスだが、その一方で倫理的な問題や夫婦の関係性に影響を与える負の側面もあるのではないか。その課題にも目を向けてほしい」と指摘を受けました。目から鱗が落ちるようなアドバイスで、慎重に進めていく必要性を感じています。開発についてはデバイス、アプリ、検査キットを具体的に仕上げていくことが直近の目標です。その後は保険診療の可能性を視野に入れて効果や安全性を示すこと。最終的にはひとりでも多くの人が過度なストレスを抱えずに自宅で生活と治療を両立できる社会になるよう貢献したいです。
- Q:次年度チャレンジする方にメッセージをお願いします
- 人生の中で感じた問題意識を忠実に提案したビジネスアイデアであれば、必ず誰かが共感してくれると思います。評価されないだろうと思わず、勇気を出して提案してみてほしい。答えは聴く人たちが持っています。一歩踏み出すことで、コンテストの順位は関係なく次のアクションにつながっていくと思います。